『中野たから幼稚園のいま』

成願寺 中野たから幼稚園 園長 佐々木雅子

 

 中野たから幼稚園は、成願寺の坂を中野坂上方向に上がったところにあります。鉄筋コンクリートの園舎は光をよく取り入れられ、園歌に歌われての通り「明るいお部屋」です。昭和29年に創立され、五十余年の歴史があります。

 

 幼稚園とは子どもが初めて出会う学校

 幼稚園は学校、と聞かれるとびっくりなさる方もあるかもしれませんが、学校教育法に定められた学校なのです。「幼稚園は、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして幼児を保育し、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えてその心身の発達を助長することを目的とすること」とあります。

 では具体的にどのようなことをしているのでしょう。職場体験で来園する中学生に話すことですが、小・中・高・大学生の仕事(するべきこと)が勉学、大人の仕事は働くこと、では、幼児の仕事は…? それは、遊ぶことなのです。ただし好きに機嫌よく遊んでいればよいのではありません。幼稚園では・園の目標・学年の目標・月ごと、週ごとのカリキュラム指導案があり、その学年のいつの時期にどのような体験をしたらよいかを考え、くみたてていきます。

 またその一方、今の教育要領で大切にされている子どもの興味、関心、意欲を伸ばしていかれるように工夫しています。子どもの中から出てきた遊びを、より発展し楽しめるように保育者(幼稚園教諭)が援助し、環境を整えています。

 一人ひとりのお子さんに一年間の課題があり、目標を達成できるように見守り、刺激をあたえ、励まし、自己発揮できるようにしていきます。

 

 安心して遊べるようになる

 一人ひとりの子どもが安心して自分を出せるように、幼稚園は楽しい、先生は自分を受け入れてくれる大人だと知らせていくことから幼稚園の生活ははじまります。「遊び」とひとことで言いますがその中には実に様々な要素があります。

 

 思い切り遊ぶ

 おもしろいことを真似したり、自分が追いかける側になる捕まえごっこ、そして慣れてくると追いかけられる側も楽しむようになります。

 子ども達は走り回ることも大好きです。鬼ごっこやドッジボールなどルールのある遊びで友達と思い切り遊ぶと満足して、静かな行動にも落ち着いた目をむけるようになります。

 

 じっくりと遊ぶ

 暑い日には容器に水を汲み、雑草を抜いて入れ『魔女スープ』を作ったり、泥団子を丸めて乾いた土をかけ、くりくりと磨いていたりします。

 その中でも子どもは気候が暑くなったこと、水が冷たく感じること、水を入れた泥が柔らかいこと、それに乾いた土を上からかけると固くなることをだれが教えずとも自ら体験し感じます。砂場で穴を掘ったり山を作ろうと高く積み上げる時、乾燥したサラサラの砂では思うように細工できません。水があるとうまく固められることを経験から知っていきます。

 中野たから幼稚園の砂場と水道は離れています。水を使いたい時は容器に汲んで運びます。大きな物にたくさん入れれば重いとか、容器の口までいっぱいにすると歩くうちにこぼれてしまうことも体験します。

 これらの体験の中には大きくなってからの算数、数学、理科の分野のことがたくさん含まれるのです。

 

 友達との関わり方を知る

 自分の思うようにばかりならないことも大切な体験です。自分が使いたいものをすぐに渡してくれないと泣くのは三歳児です。入園当初は何も言わずに引っ張り合って泣いたり、「チョーダイ」「ダメ」「ウェーン」という姿をよく目にします。そんな時、保育者が仲立ちとなり、お互いの気持ちを伝え、自分とは違う思いの人がいることを知ったり、自分の気持ちを言葉にして相手に伝えようとすることも指導です。

 ひとが使っているものを使いたい時、どのようにすれば良いのか…今は入園までによそのお子さんとのトラブルをまったく体験しないままきてしまう子もいます。喧嘩の体験はとても大切です。喧嘩やトラブルを体験して人との関わりかたや自己の主張のしかた、ひとの意見の受け入れ方を知っていきます。

 喧嘩も間違いも幼児はその時その場で大人がどのように対処するかが肝心です。時間がたってからくどくどと長くお説教しても子どもはなぜ叱られているのかわからなくなります。

 

 やがてここちよく生活するために

 年齢的にもトラブルが多くなるのが四歳児です。三歳児の単純な物の取り合いから人間関係が喧嘩の主体になってきます。

 幼稚園にも慣れ、生活に自信が出てきて自分を出すようになります。自己主張のぶつかりあいが頻繁になるのです。大人からすると一見扱いにくいギャングエイジですが、ここが肝心。是非思い切りじぶんを出すことができ、喧嘩のできるお友達をつくりましょう。

 お母様方にとっても、喧嘩をしても安心な理解のしあえる子育て仲間を作れれば大成功です。とはいえお互いを思いやることは忘れずに、悪かったと思ったら親子で謝ることも良い経験でしょう。

 

 折に触れ、心を正し感謝の心を素直に現す

 中野たから幼稚園は成願寺の幼稚園です。

 日々の登園時も正門で警備をして下さる方とご挨拶して園内に、そして園長と朝の挨拶を交わし布袋様の像に手を合わせお詣りしてから玄関に向かいます。始めのうちは皆同じように「今日も元気に遊べますようによろしくお願いします」とお願いをしていますが時期が進んでくると「お休みのお友達が早く幼稚園に来られますように」「病気でお休みしていましたが良くなりました。ありがとうございます」と様々な事を心から祈ります。

 

 また一週間に一度、皆で朝礼をして、ののさま(お釈迦様)にお詣りをいたします。

 日常の生活ではなかなか子どもがじっとしていたり、自分から心静かにする機会は少ないでしょうが、幸いなことに当園では宗教教育を通して心を静かにする機会を持つことができます。いつでもどこでも子どもを見守って下さる、のの様に心の中でお話しする事もだんだん上手になっていきます。

 お寺の境内で遊ばせていただく時も到着時「おはようございます」。園に帰る時「ありがとうございました。おかげさまでムクロジの実を拾わせていただきました」というように、のの様におまいりをします。

 焼きイモが焼き上がった時には一番に、お寺ののの様にお供えしていただきます。また、お餅つきでおいしいお餅が出来上がると幼稚園ののの様に年長組がお届けし感謝の気持ちを述べます。

 生活の中のいろいろな事が当たり前でなく、おかげさまで…と感謝の気持ちで表すことができるのは、おまいりの習慣のおかげでしょうか。

 

 さらに良くありたいと頑張る

 子どもはのびのびと…新しい活動に入る時はまず楽しいところから始めたいものです。しかしいつも面白おかしく楽しいだけで良いでしょうか?

 自分が大きくなってきたことを自覚し、さらに良くありたいと願い努力する時、例えそのことがうまくいかなかったとしても努力を認め褒められれば心は前向きにさらに良くありたいと向上心を持つことができるようになります。

 

 子育てはよく山登りに例えられます。上り坂あれば下り坂あり、いろいろな方とのご縁に助けられ協力しあい、親も子も教師も育ちたいものです。