追 悼 故山本能人師、識見人柄ともに優れ、人おのずから集まってくる羨ましい存在。本山僧堂で寝食を共にして以来20年、私にとって文字通り師兄でした。布教師として注目され始めたその時の急逝、残念無念です。 成願寺副住職 小林要介 ◎平成19年 盂蘭盆会法要 先祖供養に宿す想い 栃木県 泉渓寺 前住職 故山本能人師
皆さん蒸し暑い小雨の中、よくお出掛け頂きました。この場に参加できない方々の心も抱いてくださり、本日のお勤めお願いいたします。 まもなく盂蘭盆会の法要が行なわれます。張りだしてございます「差定」、式次第ですね、この順でどんな儀式が行なわれるのか、紹介させていただきます。 まずは盂蘭盆会の意味を申しますと、「盂蘭盆」はウランバーナという古代インドの言葉、サンスクリット語の音を漢字に当てはめたものです。この語にはいろいろな解釈がございますが、私たちを生み育てて下さったご先祖さまが、もしかしたらあの世で苦しまれているかもしれない。私たち子孫は、仏僧と先祖先亡の万霊に供養を施し、その功徳によってご先祖さまを苦しみからお救いしたい。そういう願いで行なうのが、このお盆供養でございます。 本日は「本尊上供」「盂蘭盆法会」の二部構成になっておりまして、まず行なわれるのが「本尊上供」。お盆のお経の前に本尊釈迦如来さまへの奉賛を丁寧に勤めさせていただきます。 最初の「殿鐘三会」、殿鐘は太鼓の隣に吊してございます。これが鳴らされますと山内一同へのいろいろな合図になる。言葉で合図をいたしません。太鼓、鐘、磬子などの音や鳴らされる回数によってさまざまな意味合いになります。「殿鐘三会」は法要が始まる合図となります。 続いて「七下鐘導師上殿」、七回にわたり鐘の音が響きますと、導師、成願寺ご住職の上殿。 次は「上香普同三拝」です。導師が香を献じて、お釈迦さまに丁寧にお拝をなさいます。「普同」といいますのは「皆さま、ご一緒に」ということです。皆さま一緒に両の手を合わせて礼拝をお願いします。ふだんのご法事や葬儀などの際も、導師が手を合わせた時は、同じように手を合わせて一緒にお拝をする。和尚に任せたというのではなく、ご一緒に気持ちを込めてお詣りください。 次に「般若心経」を唱え、「回向」とつづきます。「回向」では維那というお役僧が参加者一同を代表して「本尊様私たちはあなたを賛仰しております。どうぞ佳き御教導をお願いします。」と読教の目的と祈念を唱えるのです。 いま一度みなさま一緒の「普同三拝」あり、導師退堂。「本尊上供」の区切りです。
第二部「盂蘭盆法会」となります。 「小鐘一会」という鐘の音は「本尊上供」から「盂蘭盆法会」へと法要が引き続くことを意味します。いったんお下がりになった導師が袈裟衣を新たに姿を現されるのが「導師大檑上殿」です。本堂向かって右手の大きな太鼓の音が雷が落ちるが如く三度打ち鳴らされますと、導師が上殿なさいます。 そして「鼓鈸三通」。これは手磬、太鼓、鐃鉢というシンバルのような鳴らし物をだんだんと早く打ち、わたしたちの身と心を引き締めるとともに堂内の空気を整然とし、荘厳な雰囲気をつくる意味合いがございます。 こうして堂内の空気が一変しますと「拈香法語」に移ります。導師が香を献じ、皆さまのご先祖さま、全世界の戦争犠牲者、災害の犠牲者をはじめとするすべてのみ霊に対し、丁寧な供養の挨拶を述べられます。 お経は「大悲咒」「甘露門」をお読みします。とくに「甘露門」には、苦しんでいるみ霊に対し供養を捧げ、成仏を祈る意味がございます。そして両班というお役についた方丈さま方が「五如来焼香」に進まれます。 これには「五如来宝号招請陀羅尼」を唱えながら、多宝如来、妙色身如来、甘露王如来、広博身如来、離怖畏如来に香を献じ、仏の慈悲によって苦しんでいるみ霊をお救いする願いが込められています。
皆さま、お経はどなたに向けて読まれているかご存じですか。だいたいの方が亡くなった人に向けてとお考えでしょう。確かにお経は、仏さまや亡くなられたご先祖さまに対しお唱えいたしますが、巡り巡って皆さまに返ってくるのです。お経には亡くなった方に安らかにお休み下さいというお徳と、それをもう一つ越えて、私たちに照り返ってくる功徳がある。 わたしたちがどう生きたら間違いを少なく、人に迷惑をかけることを少なくして生きていけるのか。それを説いたものがお経です。私たちの心、生き方がそのまま仏さまの供養に繋がるということです。お経は皆さまの心の柱。どうぞご一緒にお唱えください。その功徳がご自分に照り返ってきます。そうしますとご家族や周りの方にもお経の功徳が照り返る。これが「回向」ということなのです 「普回向」ではこれらお経の功徳が広くすみずみにまで回り向かうよう唱えられ「修証義」に続きます。「修証義」は曹洞宗独自のお経で、高祖道元禅師さまの記された長大な『正法眼蔵』を、第一章「総序」、第二章「懺悔滅罪」、第三章「受戒入位」、第四章「発願利生」、第五章「行持報恩」からなる五章三十一節にまとめたものです。明治23年(1890)に編集完成し、たいへんわかりやすい言葉の経文になっております。 この読経中、導師をはじめとする随喜の方丈さま全員で堂内を巡り、仏さまに敬意を捧げます。これを「行道」と申しまして、特に大切な法要の際に行なわれます。皆さまには前に進まれてお焼香をお願いいたします。そしてお経の最後になります「普門品偈」という観音さまを讃える偈文をお読みします。 本日最後の「回向」では、随喜の方丈さま方によって、みなさま各家先祖のお名前が読み上げられ、供養が改めてなされます。再度「鼓鈸三通」鳴らし物の音が響き、法要の終わり、和尚方散堂、皆さまには供養符、供養塔婆をお持ち帰りいただきます。 お盆中はご先祖さまが懐かしい我が家に戻られます。どうかご一家揃って、感謝の心で楽しい時間をお過ごしいただきたいと思います。 ところで皆さまは合掌、お焼香をどのようにされていますか。まず合掌ですが、この掌に大切な方からいただいた徳という名の砂を持ちます。この砂を落とさないように指をしっかりくっつけて、両の手を合わせる。これが合掌です。その合掌した手は中指が鼻の高さと覚えてください。そして姿勢を正して、両脇にりんごなりみかんを挟む様子を思い描いてください。その美しい姿の合掌で、丁寧に礼拝をしていただきます。 お焼香のときは、親指、人差し指、中指の三つの指で抹香を取り、押し頂いてから香炉に献じます。お焼香の回数を迷われる方もいらっしゃいますが、こころを込めて行なえば一度の焼香で結構でございます。再度合掌礼拝をしてお下がりいただきます。このときお数珠をお持ちの方は、左手に掛けて行なってください。 簡単ではございましたが、本日のご法要についてお話をさせていただきました。どうか本日の功徳が皆さまに照り返りますように。それが、お若い方々に伝わって、両親をはじめ、祖父母、ご先祖さまの苦労を無駄にしない生き方をしてもらうことに繋がろうかと存じます。 まもなくご法要でございます。ご清聴ありがとうございました。 合 掌 |