秋の観音詣り 説教

「千手観音さまの功徳」

           静岡県 全珠院 住職 曽根宏規

 みなさま、こんにちは。本日はお詣りいただきありがとうございます。平成15年に新たに安置させていただいたばかりの当山の千手観音さまについて、お話しをさせていただきたいと思います。

 その昔、この一円は嵯峨天皇の荘園が開かれて、そこの殿様(郷主)のお寺として1150年前に建立されたのがこのお寺のはじまりです。千年前の荘園の殿様が実は代々続いていまして、いま三十三代。この方とその直系の家系の26軒という極めて少ない檀家さんでこのお寺は守られていました。

 この三十三代さんが、平成6年からはじまりました都市整備事業を機にお寺の復興をということで、自分の屋敷だけを残して、あとの土地をお寺に寄進してくださいました。

 お寺の復興は、百年先、二百年先ではなくて、千年先まで考えてやりましょう。26軒の檀家さん方と、「私たちは、未来千年の人に何を伝えることができるか、何を残せるか」と話し合いを重ねて、この大仏さん造りが決まりました。木造では日本一の大きさの千手観音さまです。

 膝から一番上まで像高が4メートル20センチあります。眼は目頭から目じりまで30センチ。お顔の中もからだの中も、内ぐりといいまして空洞になっています。そのお顔の内ぐりのなかに私のこのからだがすっぽり入る、そういう大きさなんですね。

 大仏は昔から一丈六尺と大きさが決まっていますが、簡単にいいますと、私が赤ちゃんとすると、お父さん、お母さんの大きさです。拝む私たちが、大事な赤ちゃんのようなほとけさま。それに対して、親の大きさのほとけさまということで、昔からこの大きさなのです。

 千手観音は「千の手」と書きますけれども、真ん中でぴったりあわせている手が本手になります。すべての祈りや願いを受けとめるという、千手観音のこころを表しています。右から20本、左から20本、合わせて40本の救いの手がついていまして、一本の手で25の世界、25人を同時に救ってくださいます。それで40本掛ける25で千という数字を表しています。

 みなさん、せっかくですから、千手観音さまの有名な手を覚えていってください。

 まずは向かって左側、おからだからほぼ真横に出して、二本の矢を握っている手があるのがおわかりいただけると思います。合格祈願や心願成就をかなえる。いいご縁をいただくということを表しています。

 その下のほうにブドウを持っている手があります。五穀豊穣、繁栄を表している手です。昔からブドウは五穀豊穣、繁栄のしるしだったんですね。

 真ん中の内側のほうに柳の枝を持っている手があります。あの手が病気をはらってくださる手です。お正月に柳餅を飾りますね。柳餅も無病息災を祈るものですが、柳の枝は病気をはらうのです。

 こちらにはハンドベルのようなものを持っている手があります。これは声が良くなる手なんです。「千の風になって」で有名な歌手の秋川雅史さんという方がいますが、このお堂ができたらコンサート会場に貸してほしいということで、チャリティーの定期コンサートを続けてくれました。集まった義援金は病気の子どもたちに献金されています。

 下から四番目にお皿の上に丸い財宝が載っている手があります。あの手が金運を開いて財を成すという手です。全国宝くじ協会が、金運の手と紹介したものですから、暮れになりますと宝くじをお持ちの方がみえて、近くまで持っていって、ことしこそよろしくお願いします。大当たりしたら住職にも必ずお礼をと握手までして帰られますが、まだ一人もおみえになっていません(笑)。

 ほとけさまを拝んでいただくときには、上に「南無」とつけていただくといいですね。千手観音さまでしたら、「南無千手観音」。お不動さまでしたら、「南無不動明王」。「南無」とは心から帰依するという意味です。自分から呼びかけて「南無」といいますと、身を清めることにもなりますから、お寺にお詣りされたときには、上に「南無」とつけていただくとよろしいんですね。

 千手観音さまのまなざしをご覧ください。ずっと下のほうを見ておられます。これはハイハイしている赤ちゃんを見守るまなざしです。赤ちゃんがひとり遊びをしていても安心な空間なんですね。

 そうしましたら、みなさん、正面から階段を上がって、間近でお詣りしてください。できたばかりの大仏さまの光と大きさを体感してください。段の上をそのまま右でも左でも横にずれていただいて、斜め45度からもう一度お顔をご覧ください。安心感があって懐かしい感じがすると昔からされています。私が思いますのは、私たちが生まれて赤ちゃんの頃、抱っこをしてもらいました。そのときのことは思い出せませんけれども、一番最初に安心して抱かれて見上げたのがこの四十五度のあたりなんですね。

 後方の階段を上がっていただいて、上からもご覧になってみてください。お顔の高さからお詣りできるようにつくってあります。悪さが近づかないように、魔が近づかないように、正面からお顔を見てみますと、厳しいまなざしに見えます。

 お帰りのときには、真ん中の本手に結びました五色の布が、表の回向柱に結んでありますので、あちらのほうで千手観音さまと握手をしてください。千手観音さまの功徳は、特に富と長寿、健康のご利益がございます。

 みなさん、きょうは観音さまに会いに来てくださって、本当にありがとうございました。観音奉賛会のみなさまのご参拝ということで観音さまも喜んでおられるように思います。お一人お一人がお元気でお過ごしいただけますよう、いまから私はこの鐘を打って念じます。みなさんも何かしら観音さまの前で念じていただいて、スキッとして帰路についていただければと思います。ありがとうございました。          合掌