台湾の少年少女剣士、初めての坐禅体験

          大義塾荻窪道場主 井上和英

 

 一昨年の秋、台南の剣道大会に招待され、それが縁で府城剣道協会少年少女剣士が平成22724日、来日しました。台湾は剣道が盛んで、世界大会では団体戦三位に入賞しています。今回の来日は、全日本少年剣道錬成大会(日本武道館)の見学と日本の少年剣士と交流を深めたい。また日本の文化に触れたいという希望がありました。それで成願寺様に坐禅の体験学習をお願いし、子ども18名、先生3名、父母9名の計30名で参禅した次第です。

 緊張しながら本堂に入ると、大石講師より坐蒲の持ち方、坐り方を教わり、20分ほど坐禅をしました。暑い中でしたが、広々とした本堂で、精神を集中させ静かに坐ることができました。その後お汁粉をいただきながら食事の作法を学び、小林住職の「五観の偈」のお話を聞いて解散となりました。お寺の皆さまと本堂前で写した記念撮影は良い思い出となりました。感想文が届きましたので紹介致します。

 

蘇欽俊(剣道三段、居合道二段、榮柳塾道場主)

 坐禅の最中は、空と満という異なる状況の対峙となっていました。厳しくなると手をあげ、お坊さんから警策を入れてもらいます。坐禅開始直後から、蒸し暑さに襲われていました。その数分後、涼しい風が吹いてまた止まりました。その後、しばらく風は吹かず、耐えられなかったため、警策を入れてもらおうと手をあげました。しかし、お坊さんは軽くしか打ってくれませんでした。そこでもう一度お願いすると、肩から全身、心まで染み渡る爽快感を感じました。とても光栄でした。

 その後、休憩中には、住職から五観の偈の説明をいただきました。まだ努力しなければならないと自省しています。来年、再訪問の時には進歩した姿をお見せできるよう修練を積むことにいたします。

 

(剣道二段)

 成願寺に足を踏み入れたとき、穏やかで落ち着いた風景に驚いて、しばらく体を動かすことができませんでした。古い木が聳え立ち、涼しい風が、陽の光をやさしくなでるように吹いてきました。この時、潮が引くように私の心は鎮まりました。本堂に入ると、鎮座する荘厳な仏像と観音像に圧倒されました。

 坐禅で使用した座布団がとても印象に残りました。丸くふわふわした座布団は、これから私とともに、静かで非日常的なひとときを過ごそうとしています。坐禅が始まった際、いくつかのことが、とめどなく頭に浮かび上がってきました。

 普段の生活でも、このように次々と考えが浮かんでくれば、心乱れて落着かないでしょう。座布団にすわり、心にある多々な考えの行き来を静かに見ることをしなければ、馬が奔走し猿が騒ぎたてるのを止めがたいように、心が乱れ、抑えがたいでしょう。坐禅を通し、自分の心が過去と未来のこと、貪欲と怒りでいっぱいであることがわかりました。これからもっと反省しなければ、一生地に足が着かず、自分の心がどんなに乱れているかもわからなく過ごしていくでしょう。

 坐禅会の後、おいしいお汁粉をいただきました。食前に読む五観の偈、食後のお茶でお椀の中をきれいにするなど、食べ物を大切にし、料理してくださった人や自然に感謝の意を表しました。

 今回の成願寺見学で、私の心と目はきれいに掃除されたようです。


蘇墨冬(剣道初段)

 成願寺の門をくぐると、静まり返った境内は、壁の外の騒音とまるで対照的でした。木や畳、そして白檀のほのかな香りが、午後の柔らかい風に乗り、広くて静かな本堂に漂っていました。

 お坊さんの簡潔な説明と通訳を経て、われわれ一行はそれぞれ南瓜の形をした座布団をとり、説明に従い、悩みを捨て、坐禅の世界に入りました。坐禅を組んで食後の眠気に打ち勝つのはとても大変なことだと実感しました。

 坐禅の後、私たちは隣の和室に案内され、用意された自家製のデザートをごちそうになりました。日本では、やわらかい座布団と涼しい空調という、古い文化と新しい文化が共存しています。見習わなければならないと思いました。


魏于生(習剣二年)

 成願寺では坐禅会に参加させていただき、お坊さんの大変さを体験しました。お線香が燃え尽きるまで我慢しなければならないはずなのに、みんなの顔に浮かぶ表情や汗に気づいたのでしょうか、お坊さんたちは、すぐに私たちを冷房のきいた部屋に移動させて休ませてくれました。直前まで坐禅をしていたことを思うと、ドキドキでした。お坊さんたちが立っていいよと言ってくれなかったら、動けなくなっていたでしょうから。初めての体験でした。

 辛かったけど、坐禅をすることで、体験したことのない心の旅をエンジョイすることができました。 新しい感覚、新しい楽しさがありました。お寺は厳粛でないといけないが、時には笑い声が上がるのもいいことだ、と聞いたことがあります。笑い声には煩悩を吹き飛ばし、張り詰めた神経を解きほぐして、沈んだ表情を一掃する効果があるからです。

 冷房がきいた部屋で、おいしいお汁粉をいただきました。でも、ただ食べるだけではありませんでした。食べ物の大切さを説いた「五観の偈」を読んでからでないと、食べることができません。そして、食べ終わったらお茶をおわんに入れ、残さず、無駄なく、最後まで飲みほさなければならないのです。

 成願寺の境内にある洗練された彫刻と美しい風景が特に忘れられません。お寺ごと台湾に引越してくることができたら、きっと多く人が訪れるでしょう。訪れる人々は見物とともに、心を静まらせて、もとの自分の姿に戻ることができるでしょう。